【目次】
退去費用には支払う必要がないケースもある
引越しをしてこれまで住んでいた部屋を退去する際、想像以上に高額な退去費用を請求された、という経験はないでしょうか。
賃貸契約には、「退去の際には原状回復を」と書かれてあることが多く、不安に思う方も多いでしょうが、実は、場合によっては支払わなくてよい費用もあるのです。
この記事では、賃貸物件の退去時に支払わなくてよい費用について解説します。
原状回復のガイドラインを知らずにいると、不必要な分まで請求されて損をする可能性も高いため、ぜひこの記事を参考に、対策をとっていただけたらと思います。
賃貸物件の退去費用とは
賃貸物件の退去費用というのは、引越しなどでマンションやアパートを退去する際に、大家さんや管理会社から請求される費用です。
入居者は退去するときに、部屋を原状回復させる義務があり、大家さんや管理会社がクリーニング業者やリフォーム業者等を手配して行う清掃代や修繕費の一部を金銭で負担します。
ただし、後述しますが原状回復といっても実際には、借りた当時の状態に戻す必要があるわけではなく、借主(入居者)の負担するものと貸主の負担となるものがあります。
敷金から原状回復費用が差し引かれる
原状回復の費用は、基本的に入居時に支払った敷金から差し引かれて支払います。
敷金は賃料や賃貸借契約上の債務を担保する目的で大家さんに預けるお金であり、家賃の1ヶ月分、もしくは2ヶ月分の金額を初期費用として、大家さんに支払うケースが多いです。
通常は物件を返還した後に借主指定の口座に振り込まれますが、退去時に原状回復費用があれば、敷金を充当してその差額が返ってくることになります。
つまり、原状回復費用は敷金の返還額を決める重要な要素なのです。
原状回復に関するガイドラインについて
物件の退去時における原状回復をめぐるトラブルを未然に防ぐことを目的として、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発表しており、具体的には以下の通りです。
通常の使用による損耗や経年劣化は賃借人負担としない
故意・過失・注意義務違反による汚れや傷、破損は賃借人負担とする
通常の使用を超える使用の損耗や毀損は賃借人負担とする
このようにガイドラインで原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確化しています。
このガイドラインには法的強制力があるわけではありませんが、退去時の費用負担を考える際に役立つでしょう。
経年劣化とは
経年劣化とは、時間の経過に伴って生じた建物設備の劣化を指します。
賃貸物件を含めた建物は、時間が経過すると様々な理由で劣化していき、自然と建物としての品質が下がってしまいますが、これはどんなに借主が気をつけていても避けられるものではありません。
経年劣化により建物や設備に修繕が必要になった場合、基本的には借主は費用負担する必要はなく、大家さんの負担となります。
通常損耗とは
時間の経過に伴い生じる劣化である経年劣化に対し、一般的な生活を営んでいる場合に生じる傷や劣化を通常損耗といいます。
通常の使用の範囲内で生じた傷、劣化については、基本的に入居者が修繕費用を負担する必要はありません。
長く同じ物件で生活をしていると、不注意で床や壁などに小さな傷をつけてしまう場合がありますが、このような傷も通常損耗の範囲とされています。
退去費用で支払わなくてよいもの
前述した通り、国土交通省が推奨する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復費用について、借主の不注意、故意を原因とする傷や汚れに関しては借主の負担となり、それとは別の経年劣化、通常消耗は貸主負担となります。
この「経年劣化」と「通常消耗」が原状回復費用が高額になる原因の大部分であり、これにより大家さんや管理会社とのトラブルになってしまう可能性があるのです。
ガイドラインを踏まえたうえで、不必要な費用まで請求されないようにするためにも、退去費用で借主が支払わなくてよいものについて、具体的に見ていきましょう。
①画鋲などの小さな穴
賃貸物件の壁にポスターやカレンダー等を取り付けたいときに画鋲を刺すことがあるでしょう。
このような掲示物は通常の生活で行われるものの範疇であり、そのために壁に刺した画鋲やピンの小さな穴は、通常損耗にあたります。
そのため、基本的に壁に空いた小さな穴程度では、借主が負担しなくてもよいものとされるのです。
ただし、壁に釘やネジを刺した場合、抜いたときに穴の跡が目立ってしまうので、修繕費を請求される可能性があります。
②フローリングのへこみや家具設置跡
フローリングはおしゃれですが、傷やへこみには弱い材質であり、冷蔵庫やベッド、ソファなどの重さのある家具を置いたときに跡が残ったり、へこんでしまったりする場合があります。
ですが、これらは通常の生活で欠かせないものであり、賃貸物件で床にへこみができた場合でも、それが家具を置いていたことによる自然なへこみであれば、基本的には通常損耗と判断され、借主が修繕費を負担する必要はありません。
ですが、通常の範囲を超えるへこみや傷は修繕費用が入居者負担になるケースもあるため、フローリングの傷みを軽減させるためにカーペットを敷いたりクッションカバーをつけたりするなど工夫をするのがおすすめです。
③鍵の交換費用
鍵交換費用の相場は1万円〜2万円程度、特殊な構造の鍵だとそれ以上かかります。
退去や引越しの際は鍵交換が必要ですが、国土交通省が推奨するガイドラインに「入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題は賃貸人の負担が妥当」とあるように、鍵交換費用は貸主が負担するものとされているのです。
ただし、借主が紛失・破損した場合や、賃貸契約書で特約として鍵交換費用を負担するように記載している場合は、借主が負担しなければならなくなることもあると覚えておきましょう。
④日焼け・電気焼けした壁や床
太陽の日照による日焼けは、自然に起こるもので、日中はカーテンを開けるのが一般的であるため、劣化は避けられません。
このような日照による壁や床の日焼けに関しての修繕費用は、借主の負担にはなりません。
また、冷蔵庫を長期間同じ場所に設置していると、冷蔵庫裏が黒っぽくなり電気焼けが生じることがありますが、これに関しても通常使用の範囲内とされるため、費用負担は貸主にあるとされています。
退去費用で支払う必要のあるもの
では逆に、退去費用で借主に支払いが生じるケースはどのようなものでしょうか。
原状回復のガイドラインによると、故意・過失・注意義務違反による汚れや傷や破損、通常の使用を超えた範囲での損耗は借主の負担になります。
具体的には、以下のケースで退去費用を支払う必要があります。
家具移動で生じた床や壁面の傷
壁や床への落書き
賃借人の不注意による畳の変色、フローリングの色落ち、クロスの変色など
タバコのヤニや臭い
ペットによる柱の傷や臭い
壁のくぎ穴、ねじ穴など
天井に直接取り付けた照明器具などの跡
日常の清掃不足による浴室やトイレのカビ、水アカ
エアコンからの水漏れなどを原因とする壁の傷み
このように、通常行うべき掃除や手入れを怠った場合でも善管注意義務違反とみなされ、借主負担となる場合があるため、注意しましょう。
退去費用に納得いかない場合の対処法
退去時に高額な退去費用が請求され、その内訳に納得がいかないケースもあるでしょう。
原状回復についてはプロでも見極めが難しいため、トラブルに発展しやすいのです。
ここでは、退去費用に納得いかない場合の対処法について解説します。
大家や管理会社に交渉する
退去費用の見積もりを出してもらって内容を確認し、もし納得がいかないようなら大家さんもしくは管理会社に価格を交渉しましょう。
交渉することで、退去費用の減額、もしくは支払い期限の延長、分割支払いに対応してもらえるケースがあります。
この場合、自身の正当性を主張するためにも、国土交通省が定めている「原状回復のガイドライン」と照らし合わせながら交渉するのがおすすめです。
無料の相談窓口に相談する
大家さんや管理会社に退去費用の交渉をしたものの断られた、という場合は消費生活センター、国民生活センターなどの行政機関に電話して相談しましょう。
これらの賃貸住宅に関する行政機関への相談は無料で行えるもので、国民生活センターは土日祝日も利用可能なため、平日休みの取れない方でも利用できる点がメリットです。
原状回復のトラブルは法的な規制はありませんが、こういった機関を利用すれば、専門の担当者が解決に向けた助言やアドバイスをしてくれます。
調停や訴訟など法的手段を取る
大家さんや管理会社との話し合いで解決しない場合、最終的には裁判等で解決を目指すことになるでしょう。
手続きとしては、以下の方法が考えられます。
民事調停
少額訴訟
民事調停では、裁判官・調停委員が同席して話し合いによる円満な解決を目指します。
また、少額訴訟は、60万円以下の金銭支払いに関する訴訟であり、手数料も安価で裁判当日に判決が出て、問題解決が目指せるものです。
退去費用に関するトラブルを未然に防ぐ方法
賃貸物件の退去時に高額な退去費用を請求されたり、身に覚えないのない傷に対しての修繕費用を請求されたりと、賃貸物件に関しては借主と貸主との間でトラブルが起こりやすいです。
ここでは、退去費用に関するトラブルを防ぐためのポイントをご紹介します。
敷金なしの物件に注意する
物件を探していると、敷金なしの物件を目にする方も多いかと思いますが、契約時に敷金がかからない物件は、初期費用を抑えるという点で大きなメリットがあるといえるでしょう。
その一方で、退去時に借主負担の原状回復費用が発生した場合、敷金から差し引くことができないため、その全額を支払わなければならなくなります。
初期費用を抑える代わりに、退去費用が高額になるケースもあり、退去トラブルに発展する可能性があるのです。
退去時の費用を抑えたいと考えている方は、入居の際に敷金があるかどうかについても注目しておきましょう。
入居時に撮影しておく
退去時の不当請求を防ぐための客観的な証拠として最も有効なのは、写真や動画です。
管理会社が入居前に写真を撮影しているケースが多いですが、借主が暮らしていく中で見つける自身のものではない傷もあり、証拠がなければ貸主と借主の間で水掛け論になってしまいます。
入居時の状態を証明できるようにしておけば、退去時に修繕費用を請求されたとしても、元々あった傷だと反論することができ、トラブルを防ぐことにも繋がるでしょう。
退去費用請求を放置しない
法外な退去費用を請求された場合でも、退去費用請求の無視や放置をしてはいけません。
退去費用を支払うことは入居者の義務であり、支払いを拒んだり無視をし続けると以下のリスクがあります。
大家や管理会社から請求される
連帯保証人に請求がいく
民人裁判を起こされる
そのため、いくら金額に納得がいかなかったとしても放置せず、その理由を述べたうえで減額の交渉、もしくは支払い期限の延長を交渉しましょう。
賃貸借契約時に結ぶ特約を確認する
入居時の賃貸借契約で設けられている「特約」にも注意しましょう。
一般的に建物の経年劣化や通常損耗による損傷現状回復については貸主の負担となりますが、これらを借主負担とする「原状回復特約」となっていたり、退去時に敷金の一定額を差し引くことや敷金を返還しない「敷引特約」を設けていたりするケースもあり、この場合、退去費用が高額になってしまいます。
そのため、借主が不利になる特約となっていないか、賃貸借契約を結ぶときは必ず特約の有無と内容を確認しましょう。
退去費用には支払う必要がないケースもある
賃貸物件の退去時に発生する原状回復費用は、借主が注意していれば防げたものに関する修繕費用であるため、支払わなくてはなりません。
しかし、経年劣化や通常損耗など、借主に非がないものに対しては支払う必要はないため、あらかじめ原状回復に関するガイドラインを把握しておき、退去費用に納得いかない場合は不当であるかを確認し、交渉しましょう。
また、退去費用を支払うのは入居者の義務であるため、どんなに納得いかない場合でも放置せず、冷静に対応してください。